M.002 · MONDO-DI NOTA · 詩
命令詩 めいれいし
KOMANDA
空気を震わせるのではなく、定義を書き換える言葉。発声者は多く、読解者は少ない。
命令詩は、音として聞かれることよりも、意味の地形を書き換えることで効果を発揮する。発せられた語は、聞いた者の語彙のうちで最も近接する語を浸蝕し、そこに少しずつ別の定義を沈殿させる。結果として、聞き手は自分が命令されたことに気づかない。気づいたときには、自分がもとから従っていたように思う。
命令詩を発するには、声帯ではなく「拍」が必要とされる。拍は祈祷の四秒周期と一致することが多く、修復所の地下が発する微振動が意図せぬ命令として働くという報告も残っている。ただし、その報告自体が命令詩の副産物である可能性は、最後まで排除されない。
かつての王族は命令詩の発声権を独占していた。現在、王位は空席のまま放置されており、命令詩は誰の所有でもない。所有者のない命令詩は、しばしば手続きに偽装する。